「新生産システム」モデル地域における木材の安定供給を確保するためには、森林面積の半数を占める小規模所有者森林からの供給の確保が不可欠である。 しかしながら、小規模所有者は1箇所当りの生産量が小さく、搬出コストが割高であることに加え、林業に所得を依存していないこと等から伐採活動が間断的であり、供給が不安定となる問題がある。 更に、現状では小規模所有者の伐採意向を素材生産事業体に効果的に伝える手段がなく、事業体間に競争が働かない結果、買い手市場の状況にあり、このことが所有者の供給意欲を減退させる一因になっている。 一方、素材生産事業体が安定的に立木を購入しようとしても、資源情報や所有者の伐採意向の情報が入手しにくいため、安定供給が図られにくい実情にある。 このため、小規模所有者を対象とした伐採可能な立木の情報データベースを構築し、供給ストックの確保並びに施業の集約化を図るとともに、事業体に情報を公開し、売り手側(所有者)の立場の強化を図ることにより伐採意欲を促し、木材の安定供給の確保に資することとする。
@ 小規模所有者に対するデータベースへの伐採(主伐・間伐)情報登録の働きかけ A 所有者が登録を承諾した林分に対する現地調査の実施 B 現地調査に基づくデータベースの設置と立木情報の登録及び素材生産事業体への公開 C 所有者への立木参考価格の提供等
「新生産システム」モデル地域における木材の安定供給を確保するため、小規模所有者を主な対象として、所有者が取引価格やロット等の条件につき立木購入者と合意に達することを条件に伐採の意向を有する立木(以下「伐採可能な立木」という。)の情報(以下「立木情報」という。)にかかるデータベースを構築し、供給ストックの確保並びに施業の集約化を図るとともに、事業体に情報を公開し、売り手側(所有者)の立場の強化を図ることにより伐採意欲を促し、木材の安定供給の確保に資することとする。
データベース運営者は、事業の目的を達するため、以下の事項を実施するものとする。
(1) データベース設置検討委員会(以下「設置委員会」という。)を設置し、当該モデル地域におけるデータベースの 設置・運営方針等についての検討を行う。
(2) データベースに登録する立木情報は、以下の項目を基準とし、設置委員会で定める。 ア 林分情報(所在、面積、樹種、蓄積等) イ 利用情報(利用材積、施業方法、直曲低別及び直材径級別材積等) ウ 立地情報(傾斜、方位、地形、林道への距離、作業道開設距離等) エ 所有者情報(所有者氏名、連絡先、希望する施業内容等) オ 施業履歴(間伐、再造林等)
(3) データベース設置説明会 森林所有者の伐採の意向を把握し、立木情報のデータベースへの登録を働きかけるために必要な説明会等を開催するものとする。
(4) 不在村森林所有者に対する森林の概況調査・情報提供等 不在村森林所有者に対し、所有林分の特定、境界踏査、現況画像の収集及びこれらの結果を含む現況情報の提供等を通じて、施業の実施及び立木情報のデータベースへの登録の働きかけを行う。
(5) 現況調査 a) 森林現況調査 森林所有者が立木情報の登録を承諾した森林に対して、立木情報及びその他立木購入希望者に提供する上で必要な 項目について調査するものとする。 なお、森林現況調査のうち、立木材積調査については標準地調査法により行うものとする。 b) 境界測量 GPS測量、コンパス測量等により行うものとし、必要に応じて隣接所有者との立会確認、法務局での公図確認、 登記簿謄本の確認等を行うものとする。 c) GIS及びGPSの活用 森林現況調査及び所有者情報の管理を効率的に行うため、GIS及びGPSの活用に努めるものとする。
(6) 立木情報の収集・管理・提供 不在村森林所有者に対し、所有林分の特定、境界踏査、現況画像の収集及びこれらの結果を含む現況情報の提供等を通じて、施業の実施及び立木情報のデータベースへの登録の働きかけを行う。
(7) 立木評価 現況調査に基づき立木評価を行い、森林所有者に対し立木評価結果を通知するものとする。
(8) 安定供給の確保 データベースを利用して立木を購入する者は、当該森林より生産される原木を、当該モデル地域における供給協定に基づき供給するよう努めるものとする。
平成18年度より平成22年度までの5年間である。
平成18年度より5年間実施された本事業の実施結果については以下のとおりである。
1 データベース整備検討委員会の開催 各モデル地域内の森林を対象とした立木情報の設置指針等についての検討及びデータベース運営者が行うデータベース(DB)の設置・運営の指導等を行った。整備検討委員会の実施および委員は、下記のとおりである。 ○平成18年度 3回 ○平成19年度 2回 ○平成20年度 2回 ○平成21年度 2回 ○平成22年度 3回(事業報告会含む)
2 データベース運営者 データベース運営者は平成18年度に各モデル地域の協議会の推薦により決定された。平成22年度まで引続き下表に示す事業体が本事業を実施した。なお、モデル地域には複数の県にまたがる地域もあるため、14の事業体でデータベースの設置・運営がなされた。 データベース運営者 モデル地域 団体名称 モデル地域 団体名称 秋 田 秋田県森林組合連合会 四国地域 上浮穴林材業振興会議 奥久慈八溝 東白川郡森林組合 いしづち森林組合 岐阜広域 岐阜県森林組合連合会 高知中央・東部 高知県森林組合連合会 中日本圏域 三重県森林組合連合会 熊 本 熊本県森林組合連合会 愛知県森林組合連合会 大 分 大分県森林組合連合会 岡 山 津山市森林組合 宮 崎 宮崎県森林組合連合会 四国地域 徳島県森林組合連合会 鹿児島圏域 鹿児島県森林組合連合会
3 事業の概要 各モデル地域のDB登録・公開システムは、一部に改良の必要はあるものの、概ね良好に運営されており、公開面積は8,065HA、公開材積は 1,069千m3、公開に伴う供給量は165千3となった。詳細は表1のとおりである。
4 5年間の各項目毎の実施状況 平成18年度から22年度までの5年間にわたり各運営者が実施した、本事業の項目毎の実行概要は表1〜表5のとおりである。
5 デジタル空中写真撮影状況 本事業のため添付図表箇所のデジタル撮影を行った。
6 実行結果のまとめ 本事業を5年間実施したことにより、各モデル地域のデータベースシステムの運用は総じて定着した。 @ 現地調査等を実施した地域からは、林分状況が把握でき、不明瞭であった境界も明確となったことなどから、本事 業に参画した森林所有者からも好評であり、集約化への理解は確実に広がった。 A デジタル航空写真を活用しての予備調査や森林所有者への森林状況の説明には、予想以上の成果を得ており、民間 加工事業体からデジタル写真の複製提供の依頼があるなど、今後、更なる効果が期待できる。 B 本事業を通じて、他事業との連携を図る動きが活発化しており、集積したデータの活用段階に入りつつある。 C しかし、反面、森林所有者には、高齢者が多く、情報公開への不安が払拭出来ない者も多く、今後、更なる説明努 力が必要である。 D また、一部のモデル地域では、入力ミスによる異常値をそのまま公開するなどのため、システムの一時停止を余儀 なくされており、データ公開前の確認体制の見直しが、早急に必要である。 E 各運営者は、システムの維持管理費を運営者の全体事業費で負担することを検討しているもの、販売手数料の充当 を検討しているものなど、検討途上にあるが、全ての運営者は本システムを活用・充実させることとしている。
7 制度面などにおける課題 事業を推進する中で制度面などにおける課題も浮き彫りとなった。 @ 森林簿などが個人情報として、林業関係団体に開示されない。 本事業の推進に当たっては、多くの場合、各県森連が運営者となったが、自治体より森林簿などの提示が許可され ず実行上苦慮した。個人情報としての取扱いは各自治体が定めるが、補助金の充当が多く公共性の強い森林情報の取 扱いについて、検討が必要である。 一方民間では、既に市街地や住宅地は個人名まで公表している現状にある。 A 森林情報の共有化を図る必要がある。 現在、各自治体が管理している森林簿及び基本図などは、データ更新がなされておらず実態と大きく乖離してい る。一方で、森林組合では林家台帳やGISによる新たな情報を取得しつつあり、これらの情報を集約し、森林・林 業関係団体が共有するシステムを構築が急務である。 事業地の集約化には情報の集約化が不可欠である。 B 森林組合と民間事業体の協力体制の確立 現状、森林組合は施業計画を作成する一方、所有者との長期委託契約を締結するなど林産事業を展開している。本 事業の推進に当たり、森林組合では情報の集積(とりわけ好条件の林分)を自らの林産事業箇所として抱え込む実態が 見られている。 このため、高コストな作業を助長する結果となっており、民間事業体の協力を図りつ改善する必要がある。